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「でも心配したのよ。真弓、昨日は一日中ずっと眠ってたんだから」
「そうなの?どうりでボーっとするわけだ。それじゃ、今日は・・・・・・」
十二月二十日、と答えて母はまたリンゴにかぶりついた。つまり、ロールキャベツを食べたあと倒れたのは一昨日、十八日。そして昨日、私の眠っているあいだに母は田中先生やトモ姉ちゃんと親しくなったというわけか。
「それにしても、貧血で長いこと寝てたもんだね、私」
「これからは毎日レバーを食べさせないといけないわね」
あんな生臭いものを毎日だって、ちょうど給食で食べたばかりなのに。思い出して軽い嗚咽を催す。と、そこで違和感が生じた。あれ、一昨日はロールキャベツだったよね。じゃあレバーは?いや違う、ロールキャベツの翌日がレバーだったから、給食センターの嫌がらせかと私は肩を落としたのだ。どうも辻褄が合わない。まあいずれにしろ、今日の母は冗談が過ぎるのは間違いない。
「さて、あんたは無事に目を覚ましたし、午後からパートに出ようかしら。ひとりでも平気よね?」
「大丈夫だよ、子どもじゃないんだから」などとお約束に強がってみる。というか実際、ひとりぼっちになることより、クシ切りにされたリンゴが二つしか皿に残っていない事実に切なくなった。
「ふふっ、そうね。それじゃ、お店に電話してくる」
そう言って立ち上がりパイプ椅子を畳んだにもかかわらず、母はどこか名残惜しそうにテーブルを見つめる。
「どしたのお母さん?」
ひょいとつまんでパクリ。カメレオンの捕食のごとく一瞬で、リンゴは残り一片となった。
「あ・・・・・・あぁ」
「うん、やっぱりリンゴはボケてる方がおいしいわね。バイバイ」
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