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―Scene 8―
「元気にしてるか?」
「あたしはいつでも元気です。知ってるでしょ?」
「まあな。黒沼さんも張り切ってんだろ?」
「ええ、演出プランが色々あるみたいで。この間は終電逃して稽古場に泊まりました」
「その割には楽しそうだな」
「だっていろいろ分かるんです。
考えても分からなかったことが『ああそうなんだ』って思えてすごく嬉しいんです。
他のみんなの演技も良くなって毎日楽しくて。
だから、あたしは元気なんです。
それしか取り柄がないってこともあるけど」
「それはそうだ。元気のない君は」
―見たくない…
「…らしくないからな」
「大丈夫です!忘れてないですから。チケットだってちゃんと2枚送ります」
「1枚でいい」
「え?でも」
―いいんですか?
「いいんだ」
「……はい。わかりました……」
「…ところで、きれいだな」
「え?」
「バラ。そこに付いてる」
「ええ、あたしのお守りなんです。ずっと枯れないバラ」
「そうだな。永遠に枯れない……」
―…枯らせはしない。絶対に。
「でも試演が終わったらどうなるんだろ?今は毎日充実してるけど、これがなくなったら…」
「さあな」
「冷たいですね。未来の紅天女かもしれないのに」
「失敬。で、実際どうするんだ」
「考えてません。何していいかもわからないし。あと2ヶ月はこのままでいいけど…」
「夏休みも返上、か」
「高校卒業したし休みなんてありません。お盆はあるけど別にどこにも行かないし」
「…では提案しよう。一つ旅でもするといい」
「旅?」
―…あ……!
「朝晩は風が強い。羽織るものが要るからな」
「はい!」
あの朝と同じ笑顔。
これは、決して夢じゃない。
(了)
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