鍵を握るのは、眠る人。

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「……っ」 びくっ、と、肩が揺れた。 指先から体温が、どんどん抜けていく。 「……やっぱり、生田さんだったのね」 沈黙を守ったはずなのに、それは肯定しているのだと、峰岸先生は言わんばかりにそう呟いた。 「家の前の、細い路地。 見慣れない車が停まってると思って、よく目を凝らしたら……。 男の人と、一緒だった?」 「…あ、あの…っ」 一緒にいたのが向上先生だとは、気付かれてなかったみたいだ。 言い訳なんて出来ないのに、慌てて弁解しようとする私の目に映ったのは、峰岸先生の悲しげな表情。 眉を垂らして、思い詰めたようなその顔に、思わず息をのむ。 「…ごめんなさい…」 謝罪を口にしたのは、峰岸先生の方。 私はただ、じっと彼女を見上げるとしか出来なかった。 「私、高雄は生田さんに全部話してると思ってたの。 なのに、何にも話してないんだって、昨日、高雄に聞いて…。 あんな場面、驚いたでしょう」 「……っ」 初めて、峰岸先生の口から“高雄”の名前を聞いて、泣きたくなった。 私と同じくらい、……ううん、きっとそれ以上に。 彼女は、高雄の名前を、呼び続けて来たんだ。 「…高雄、とは……」 まさか、朝の教室で。 こんな核心的なことを、本人に訊ねることになるなんて、思わなかった。 「高雄とは……付き合ってるんですか……?」
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