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私は小さく会釈をして、その場を立ち去るために足早に歩き出した。
「ひどいな、置いてきぼり?」
後ろからののんきな声と一緒に、向上先生が私を覗き込んでくる。
「…一緒に登校する意味、ないと思うので」
「加賀先生はいいのに?」
「……加賀先生とだって、一緒に学校までは行きません」
「だよね。
加賀先生は、何より凛々ちゃんが大事なんだし?」
思わず立ち止まり、ジロリと睨み付ける。
そんなことは鼻にもかけていない向上先生は、愉しそうに笑っていた。
「嫌われちゃってるね、俺」
「ええ、大嫌いです」
その愉しそうな表情にそぐわないセリフに、ますますイライラする。
校門は、もうすぐ目の前で。
1秒たりともこの人と一緒にいたくなくて、私は再び足を進めた。
「凛々ちゃん、怒ってるの?
…昨日のキスのこと」
私の半歩後ろをついてくるその声に、ざわりと嫌悪感が身体を走る。
昨日の、…触れた唇の感触が蘇る。
「……あんなの、気にしてません。
ただの、事故ですから」
だけど、この人のペースに呑まれちゃいけない。
そう思い、気丈に言い切った私を、向上先生は小さく笑った。
「…そうか。
キスなんて、加賀先生と経験済みか」
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