木曜日の憂鬱

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「…なっ」 カッと顔が熱を上げる。 向上先生はさも当然と言ったように眉を上げた。 「キスが初めてなら、もっとショック受けるとか、俺を意識するかなって思ってたんだけど。 ただの事故だって言えちゃうくらい、しょっちゅうしてんだね」 「だ、誰もそんなこと言ってないでしょう…っ?!」 「凛々ちゃんのその反応。 キミ、隠し事が出来ないタイプだ」 自分の唇をトントンと指で叩きながら、愉しそうに目を細める向上先生。 「しかし、加賀先生もすごいね。 この学園の臨時講師を引き受けたって聞いたときにも驚いたけど。 …生徒である凛々ちゃんと一緒に暮らしてるだけじゃなく、手を出してるなんて。 ……知られたら、すっごいスキャンダルだよね?」 「!」 私は踵を返して、向上先生に向かい合う。 「……脅す気ですか?」 「まさか」 向上先生は、わざとらしく心外、と言った表情を浮かべる。 「学園にリークするとか、そんな面倒なことするつもりないし。 俺はただ、凛々ちゃんの気を引きたいだけなんだ」 悪びれない笑顔で、ポンと私の両肩に手を置く。 登校してくる生徒たちが、興味津々といった感じで私たちを遠巻きに見ているのが、分かる。 だけどそんなの気にしていられないほど、私の怒りはピークに達していた。 向上先生の顔がゆっくりと近付き、耳に寄せられる。 「今度は、舌でも入れておこうか」
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