木曜日の憂鬱

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――バチンッ!! 朝の通学風景には不似合いな衝撃音が、響く。 それと同時に、カシャン、と小さな音を立てて、向上先生の眼鏡が地面に転がった。 「…いて」 平手打ちされた左頬を擦りながら、向上先生がゆっくりと身体を屈めてそれを拾い上げる。 私たちを見ていた生徒たちが、ザワザワと騒ぎ出した。 「最低……っ」 腹立たしさで震える手を抑えながら、それだけ言い残して私は走り出した。 ――最低、最低、最低っ!! なんなの、アイツ!? 一部始終を見ていた人たちの視線が痛い。 一気に昇降口まで走り切った私は、息を切らしながらヘナヘナと下駄箱に手をついてしゃがみこんだ。 「凛々!」 そのまま乱れた呼吸と気持ちを落ち着けようとしていると、後ろから恵那の焦ったような声がして、振り返る。 「恵那…」 「ちょっと! 今のなんなの? あれ経営学の向上でしょ!? 朝っぱらから平手打ちなんかして、どうしたのよ?」 見ると、恵那の後ろにはヒソヒソと好奇の視線を浴びせる人だかりが出来ていて。 分かってはいたものの、自分の行動がどれだけ注目を集めていたのかを目の当たりにして、恥ずかしさとやり切れなさで泣きたくなってくる。 「…なんでもないの。 ちょっとからかわれたのを、私が冗談で流せなかっただけだから」 「いや、なんでもなくないでしょ?! 凛々がキレるなんて、セクハラでもされたの?」 「……そうかもね」 「えっ! マジ?!」 恵那の登場のおかげで、私は苦笑いしながらようやく立ち上がることが出来た。 深く突っ込まれたらどう答えようかと思ったけど、恵那は「向上って思った通りムッツリだったか」と一人で納得していたから、そのままにしておいた。 靴を履き替えて、周りを見回す。 チラチラとこっちを見ながら行き交うのは生徒だけで、私はホッと胸を撫で下ろした。 …高雄に見られてなくて、良かった。 そう安心したのも、つかの間だった。 恵那と一緒に教室までの廊下を歩いて、階段を昇ろうと角を曲がった瞬間。 私の腕は、後ろから強く引っ張られた。 「お嬢」
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