木曜日の憂鬱

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そのよく知りすぎた声に、心臓が跳ね上がる。 「た、高雄?」 「ゴメンね、望月さん。 ちょっとお嬢を借りてくよ。 ホームルームまでには返すから」 「ええっ!高雄…っ?」 ポカンと口を開けている恵那に、高雄はにっこりと笑顔を向ける。 そのまま私は手を引っ張られ、階段横にある空き教室へ押し込まれた。 ――パタン。 木で出来た古い引き戸がピシャリと閉められ、乾いた音を立てる。 「……」 「…お嬢」 突然のことに心臓をバクバクさせていると、高雄がゆっくりと近付いて来て、私はハッと我に返った。 「…な、にやってんの?! …こんなことして、誰かに見られたら…っ」 「……それより、なにあれ」 「それよりって……、え?」 高雄が、眉を潜めて私の顔を覗き込む。 「校門で、平手打ち」 「!! …み、見てた、…の?」 「……あの人、パーティーでお嬢に声かけてた人だろ? なんで彼と一緒にいたの?」 「…えっと、こ、向上さんって、言って……。 実は、…高雄と同じ、選択授業の講師の一人だったの…」 「……初耳なんだけど」 「…報告することじゃ、ないし」 「……」 視線を逸らすように、俯く私に、 やれやれ、と言った表情を浮かべながら、高雄は小さくため息をついた。 「…パーティーでも、何か言われたみたいだったよね。 ……お嬢の不機嫌の理由は、彼?」 「……そ、それは…」 「彼と、何かあった?」
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