それはまるで刻印のような。

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ああ、なんて気が進まないんだろう。 日本文学の授業に向かう私の足取りは重たかった。 理由は、さっき偶然見かけてしまった光景だ。 異様に女の子たちが窓際に集まってはしゃいでいるから、私も何かとふと目をやった。 すると、そこから見える渡り廊下にいたのは、 …高雄と、向上先生が向かい合っている姿だった。 イケメン二人のツーショットだぁ、なんて目を輝かせている他の子たちの後ろで、私だけが顔面蒼白。 笑いあっていて和やかな雰囲気だったけど、向上先生が余計なことを言ってないか、とか。 高雄が変な探りを入れてないか、なんて考えて、冷や汗がダラダラだ。 同じ臨時講師だし、同じ年代だし。 ただ挨拶を交わしているだけかもしれないけどさ。 だけど、あの二人が一緒にいるなんて、嫌な予感しかしない。 …なんで私がこんなに気を揉まなきゃいけないの…。 はーーっ、と長い長いため息をついて教室に入ると、教卓に集まって数人の女の子たちが、何やらキャピキャピと盛り上がっていた。 「やっぱり素敵よね、向上先生」 「そうかしら? なんだか軽そうじゃない。 私は加賀先生の方が好みだわ」 「えーっ、でも婚約者がいるじゃない。 将来有望なのは向上先生でしょ」 「加賀先生だって婚約者以上の人がいれば、そっちに靡くわよ。 そう仕向けるのが醍醐味なのに」 「それなら、女好きそうな向上先生をオトす方が簡単じゃない?」 「…どっちでもいいけど、あれくらいのレベルの男と付き合いたいわね」 ………。 お嬢様って、ほんとに……。
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