それはまるで刻印のような。

4/8
前へ
/244ページ
次へ
美鈴は、ふるふると頭を振る。 「大したことじゃないの。 …今朝の騒ぎが気になって様子見に行っただけだから」 「あ、そうなの? なんか、心配かけてごめんね」 なんだかバツが悪くなって苦笑いをする私に、美鈴はにこっと笑う。 「そういや、美鈴はどっち派なの?」 「えー、私に聞く? それ」 「だって気になるし。 美鈴の好きなタイプって、謎だもん」 「んー…、タイプか。 そういえば、あんまり考えたことないな。 男の人と話すことも少ないし」 「私たち、小等部から女子校だもんね。 そりゃあ、男の人との接点なんて……」 って、あれ? ある光景が思い浮かんで、ピタリと言葉を止めてしまった私を、美鈴は不思議そうに首を傾げて見ている。 「……そういえば美鈴、昨日、誰かと話してなかった? 中庭で」 「――え?」 その声が震えた気がして美鈴を覗き込み、私は驚きで目を丸くした。 美鈴の顔が、みるみるうちに強ばっていく。 「………み、美鈴…?」 恐る恐る名前を呼ぶと、美鈴は我に返ったようにピクリと身体を揺らした。 「……なんの、こと?」 「…え?」 「昨日、私、…中庭になんて行かなかったんだけど…。 ……誰かと、見間違えたんじゃない?」 「……」 そう言った美鈴は、さっきのが嘘みたいに、いつも通りの穏やかな笑顔だった。 …確かに、あれは遠目だったし。 美鈴なのかなー?、くらいにしか認識していなかったから、美鈴本人が違うと言うのなら、本当に人違いなのかも知れない。 …だけど、…なんだか胸がざわつくのは、どうしてだろう。 「…そっか。 そうかも。 見間違いだったのかな?」 「ふふ。 …凛々ったら、何言い出すのかと思ったわ」 「あはは。 ゴメンゴメン」 私は食い下がらないで、話を合わせて笑う。 …もし、私が見たのが美鈴だったとしても。 これ以上、美鈴は何も話さないと思ったからだ。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3613人が本棚に入れています
本棚に追加