それはまるで刻印のような。

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予鐘が鳴り、私たちは思わず時計を見上げた。 いつの間にか教壇で固まっていた生徒たちも、それぞれ席に戻っている。 「そういえば、お兄さん元気なの?」 「え? なに? いきなり」 なんとなくぎこちない空気を変えようと、私は適当な話題を出した。 美鈴はいきなり兄の話しを出されて、キョトンとしている。 「いや、なんとなく。 小等部のころは、美鈴の家でたまに遊んでもらったから。 懐かしいな、って思い出しただけ」 「そっか。 …今はね、家にはいないんだ。 大学の寮に入ってるから、会うのは年に数回だよ」 「へぇ。 そうなんだ」 美鈴の家は長女が跡取りになるのが慣わしだ。 そういえば、お兄さんは弁護士を目指しているのだと、風の噂で聞いたな、と思い出した。 「……兄、と言えば、禁断の愛の王道らしいよ」 「……は?」 「いや、今朝ね、クラスの恵那って友達と話してたの。 兄と妹の禁断の愛って、萌えるんだって」 「…はは、なにそれ」 美鈴は、どことなく困ったように笑った。 そして、ふと、睫毛を伏せて、 「……一緒に暮らして来たお兄ちゃんに恋愛感情なんて、出てこないよ。 ただ、もし本当に禁断の恋をしちゃったら…。 本人たちは、痛いくらい、苦しいんだと思うよ」 そう言った美鈴は、また、あの“女”の色をした瞳になっていた。
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