それはまるで刻印のような。

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「…そろそろ来るかな、加賀先生」 「…うん」 美鈴はふわりと笑って、私に向けていた身体を黒板の方に戻した。 この前から感じていた、彼女のどことなく哀愁のある雰囲気に後ろ髪を引かれながらも、私も視線を前に向けようとした。 その瞬間。 「――!」 視界の端に映った光景が信じられなくて、私は目を見開いて固まる。 頬杖をつきながら足を組む、美鈴の白い太もも。 その内側、スカートからほんの少し見える位置に、青白いアザが浮かび上がっていた。 多分、普段立っているときには見えない。 だけど、座って足を組んだことで顔を覗かせたそれの異様さに、私はゴクリと息を飲んだ。 「…美鈴…」 私の掠れた声に反応した美鈴が、不思議そうに首を傾げる。 そして私の視線を辿り、自分の太ももを見て、慌ててそれを手で隠した。 「……なに、それ…?」 「…凛々…」 気まずそうに上げられた美鈴の顔は、青ざめていた。 それはまるで、刻印のような。 ――噛み付かれて出来た、歯形のアザ。 それは痛々しく、くっきりと白い太ももに、存在を残していた。
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