それはまるで刻印のような。

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「…それ、どうしたの?」 「……なんでもないの」 「なんでもないわけないじゃん! なんで、…そんな場所に…」 「……」 美鈴は俯いたまま、唇をきゅっと噛んだ。 「……見なかったことに、してくれない…?」 「そ、んなの…っ。 出来るわけないでしょう…?!」 「私がっ…」 問いつめようとする私を、顔を上げた美鈴の真っ直ぐな目が遮る。 「……私が、…頼んだの。 どうしても、こうして欲しいって……」 「美鈴、が…?」 「お願い…。 理由は、聞かないで…」 「……」 いたたまれないのか、また視線を反らせる美鈴。 …さっき見た、あの“女”を感じさせる瞳が、思い出される。 ――『私なんかが計り知れない、苦しい恋をしているのかも知れない』 そう思ったのは、私自身で。 美鈴が何かを言ったわけではないけれど……。 だけど、太ももの歯形のアザと、小さく肩を震わせる目の前の美鈴が、 その細い身体に耐えきれないほどの大きな秘密を抱えているのだと、確信させる。 「美鈴…」 「……」 「何を、隠してるの……?」 「…ごめん、…許して」 「美鈴…」 「……」 「………大丈夫、だよね…?」 不安で押し潰されそうな私の問いかけに、美鈴はただ、哀しい微笑みを浮かべるだけだった。 .
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