それはまるで刻印のような。

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それから美鈴とは、一度も目を合わせなかった。 どう頭を巡らせても嫌な予感しかしなくて、不安が募る一方だ。 そんな私の様子を教壇に立った高雄が気が付かないわけがなく、日本文学の授業が終わるとすぐに携帯が震えた。 『どうした?』 たったその一言に、涙腺が緩む。 だけど、まさか有りのままを話すわけにはいかないし、かと言って、上手く濁して相談してみる、なんて私には無理。 美鈴のあのアザのことは、誰にも言えない。 だけど私ひとりでは抱えきれそうになくて。 『大丈夫、眠たかっただけ』と高雄に返事を打って、やり場のない不安を飲み込んだまま、のろのろと立ち上がった。 今になって思えば、どうしてこのとき、高雄に相談しなかったんだろう。 ううん、それ以前に。 私から美鈴に、もっと出来ることがあったはずだ。 無理やりにでも話しを聞き出して、…彼女が1人きりで抱えている苦しみを、吐き出させてあげていたら。 …あんな、悲しいことにはならなかったのかも、知れない。 ――私が美鈴の歯形のアザを見た、その日の午後。 美鈴は、学園から姿を消した。 .
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