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「じゃあな」と、私の頭をポンポンと叩いて、高雄は出て行った。
私もなんとかいつも通りの笑顔を作って、その後ろ姿を見送る。
「……」
途端に、空気がシンと静まり、物悲しい気分になる。
…今日は、特に。
美鈴のことで気持ちがグラグラしていたから、…何も話せないでも、高雄に傍にいてほしかった。
――だけど、“行かないで”なんて言えるわけないじゃない。
そこは、踏み込んじゃいけないと分かってる。
…なんてのは建前で、私はまだ、決定的に突き付けられたくないだけなんだ。
私より、高雄が恋人を選ぶ、ってことを。
「……」
どうしようもなく悲しい気持ちを溜め息に込めて、目を閉じる。
こんな日に1人きりでいられない、と子供みたいに人恋しくなって、
私は、ふらりと母屋に向かった。
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