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…高雄は、煙草を吸わない。
少なくとも私の前では、だけど。
高雄の仕事部屋に、灰皿があるのは知ってるし。
だから。見慣れない光景だから。
洋介さんを、初めて“男の人”として認識してしまった。
「…俺が思うに」
洋介さんは、煙草の灰をトン、と灰皿の中に落とした。
「道を、踏み外したくなったんじゃない?」
「…道?」
「聞いてるとその子、すごく厳しく育てられてるみたいだし。
凛々ちゃんくらいの年頃だと、決められた道に反抗する気持ちが出てくるのは当然のことだと思うんだよね」
「でも、だからって…」
「うん。 だけど、面と向かって親に反抗したり、派手に遊んでストレスを飛ばせる子は、まだいいんだよ。
それが出来ないと、歪んだ形で抵抗したり、自分が壊れたりする」
「…壊れる…」
「極端な話し、例えば暴走族の不良は、意外と大人になって社会に馴染めたりするけど、周りからイイコだって言われてた子が、いきなり事件を犯したり」
「…こわ…」
「または、自虐。
死ぬ気のないリストカットとか」
「……」
淡々と話す内容に、ぶるりと震えた。
…それじゃあ、美鈴のあれは、その自虐に入るんだろうか。
手にしていたペットボトルに、キュッと力が入る。
「そんな気持ち、判らないって顔してる」
「……」
ふ、と笑う洋介さんは、無造作に煙草を灰皿に押し付けた。
「凛々ちゃんには、加賀さんがいるからね。
…あんな風に、我が儘を言えて素の自分をさらけ出せる相手が身近にいるのは、恵まれてるよ」
「……それは、分かってる」
俯いて答えると、洋介さんが柔らかく微笑んだのが、空気で分かった。
「…でも、何が危ないって。
その子の痛い要求に応じてしまう相手がいるってことが、一番怖いね」
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