決められた道は、壊したくなる。

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ぞくり、と背筋が冷たくなった。 考えれば当然なんだけど、あんな場所、自分じゃ噛むことなんて出来ない。 ――『私が、頼んだの』 窮屈な毎日に息詰まって、美鈴が人知れず“悪いこと”をしようと思い立ったのだとしても。 だからと言って、痣が残るほど、思い切り噛みつけるだろうか。 …それが、恋人なら。 「……」 そこまで考えて、私はギュッと目をつむった。 「なんか、余計に不安にさせちゃったね」 「……ううん、聞いてもらえて、少し楽になった」 眉を下げて微笑む洋介さんに、私は力なく笑って首を振った。 「……洋介さんは、分かる?」 「なにを?」 「その…、…今いる自分の環境を、壊したくなる気持ち…」 「……」 目を見開く洋介さんに、私は思わず俯く。 「…こう言ったら、甘えに聞こえるかも知れないけど…。 私だって生田流の跡取りで、だけどそれを疑問に思ったり、嫌だと思ったことはないの。 今あるものが壊れることなんて、考えただけでも怖くて…。 だから、…そのリスクを犯してまでもがく気持ちが、よく…判らない…」 「……」 言っていて、なんてガキくさいんだろう、と、恥ずかしくなった。 与えられた道に疑問を持たない方が、もしかしたら少数派なのかもしれない、けど…。 恥ずかしくて小さくなっていると、ふ、と洋介さんの雰囲気が柔んだ気がした。 「凛々ちゃんが周りに大切にされてる証拠だね」 「……」 ちら、と目線を上げると、洋介さんは新しい煙草を取り出していた。 「俺は、分かるよ。 今いるここが、正に“逃げ場”だからね」
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