決められた道は、壊したくなる。

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「ここって、…住み込みのこと?」 新しく煙草に火をつけた洋介さんは、肩を竦めて笑う。 「ていうより、ピアノとは全く違う世界にいる、ってことが、かな?」 「……どういうこと?」 なんだか意味深な答えに、眉を寄せる。 だって、琴の家元であるこの場所に、ピアノを持ち込むほどだもの。 琴を習いたいとは別に、よほどピアノが好きなんだろうと、思っていたからだ。 そんな私から目を逸らし、洋介さんはフワフワと浮かぶ白い煙りを見ている。 「…凛々ちゃん、辰巳清四郎って、知ってる?」 「…辰巳、清四郎…」 聞き覚えのある名前だった。 他でもない、あのパーティー会場での、九条さんと対峙していた洋介さんの、陰りのある表情が思い出される。 「…確か、…お父さん、だよね? 洋介さんの」 「そう。 …九条さん、だっけ? 辰巳の名前とピアノってだけで、まさか清四郎の息子だって言い当てられると思わなかった」 よっぽど音楽業界に詳しいんだね、と苦笑いをする洋介さん。 私はただ黙って、どこか切なげに吐き出された煙りの向こうにある洋介さんの言葉を待った。 「彼はね、クラシックの世界的指揮者なんだ。 しかも、俺の母親はプロのピアニスト。 音楽一家に生まれた俺は、漏れなくその道に進むよね。 しかも、絶対音感なんてオマケつき。 周りも自分も、ピアノで生きていくと思ってた。 疑いなくね」 いつの間にか洋介さんの視線は、ピアノを真っ直ぐに見つめていた。
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