決められた道は、壊したくなる。

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洋介さんはピアノから離れて、私の斜め向かいに座った。 そして、手を伸ばして私の頭をポンポンと叩く。 「凛々ちゃんの友達も、その男に救われてるのかも知れないけど……。 でも、傷をつけるとかは、どうしたっていいことだとは言えないから。 出来るだけ、気にかけておかないとね」 「……やっぱり、男の人だと、思う…?」 洋介さんはキョトンとした後、妙に恥ずかしくなっている私に気付き、ぷっと吹き出した。 「そりゃあね。 そんな場所に噛みつくなんて、その行為の延長上としか考えられないでしょ」 「………」 ぐ、と詰まって、私は顔を赤くさせた。 …あんまり、考えないようにしてたんだけど…。 幼馴染みで、完璧で、気高いお嬢様の美鈴のイメージが、一気に消し飛ばされた。 だけど最近たまに見ていた、あの憂いを帯びた目を思い出すと、…そうだったんだ、と思えてしまう。 あの目は、美鈴が“女”になったという証拠だ。 心も、…身体も。 「凛々ちゃんには、まだ刺激が強い話しだった?」 洋介さんがからかうように首を傾げてくる。 う……、とたじろぎながらも小さく頷くと、洋介さんは声を出して笑った。 「……そういえば」 「なに?」 「洋介さんて、彼女いるの?」 新しい煙草を口にした洋介さんが、目を丸くする。 「……なんで?」 「えっ、…いや。 なんとなく、だけど…」 「……あ、そう」 「……」 火をつけ、ふーっと煙を吐く洋介さんは、無表情。 なんだかマズイことを聞いてしまったのかと思い、口を閉ざす。 「……まぁ。 …凛々ちゃんにならいいかな」 すると浮かんだ白い煙を眺めながら呟き、洋介さんは笑顔で私に視線を移した。 「俺のとっておきの秘密、教えてあげる」 .
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