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「…あの人なら大丈夫、なんて考えは、捨てたほうがいい。
それが辰巳でも、…俺であっても」
「……」
「言っただろう?
お嬢は、危ういんだよ。
…俺しか、男を知らないんだから」
ファスナーを上まで上げて、高雄は私の乱れた髪の毛を、優しく整えていく。
「同じ家に住んでても、自分には絶対に間違いを起こさない男。
そんな俺しか、お嬢は知らないんだよ」
「……」
「信頼があれば、周りの目があれば、付き合いが長ければ。
理由があれば、男は大丈夫だと思ってる。
…お嬢の知ってる俺を、男のものさしにしちゃ、危ういよ」
高雄の瞳に、私の知らない“男”の光が、揺らいでいる。
涙が、とまらない。
「俺だって、いつでもお嬢を抱けるんだ」
――だけどそれは、怖いからじゃない。
私の知らない高雄の顔を見せつけられて、触れられた記憶を残されて。
……私をそんな風に扱えるのだと、教え込んで。
それじゃあ。
私が望めば、高雄は、私を抱いてくれるの?
甘い香りの恋人と同じように。
「……キライ……」
「…うん」
「嫌い。 高雄なんて、大っ嫌い…!」
「……」
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