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“きらい”を繰り返す私を、高雄は仕方ないな、といった目で見てくる。
わかってる。
私の“きらい”に中身がないなんてこと、高雄にはお見通しだ。
「…嫌いでも怖いでもいいから、俺にもっと、警戒してくれればいいよ」
「……」
「俺は、男なんだから。
優しくて紳士なフリをしてたって、皮を剥がせば、そこら辺のやつと同じだよ」
ぽんぽん、と、私を宥めるように頭を叩いて、高雄は立ち上がった。
「部屋に戻るよ。
…何かあったら、いつでも呼んで」
そして最後は、いつもと同じ言葉を言う。
私が恨みたっぷりの目で睨むと、高雄は肩を竦めて笑い、部屋に入った。
1人残された私は、クッションに顔を埋めて、声を殺して泣いた。
…高雄にされたことは、怖かった。
だけど高雄の“男”の顔を知って、今の私は、嫉妬でぐちゃぐちゃだ。
――あの甘い香りの恋人は、私の知らない高雄を見ているんだ、と。
そして、私に意図的にそれを見せた高雄にとって、私は、やっぱり“女”じゃないんだ、と。
高雄の身体に移った恋人の残り香が、微かに部屋に残っている。
私はそれから逃げるように、自分の部屋へと戻っていった。
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