彼女の居場所

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「わっ。 びっくりしたー…」 「峰ちゃん。 どうしたの?」 「ふふっ。 ごめんなさい、驚かせて」 峰岸先生が側に来ていたことに気付かなくて驚いた私に、彼女はコロコロと愉しそうに笑っている。 「廊下通ったら、二人を見かけたから。 望月さん、美化委員だったわよね。 これ、顧問の先生から預かったプリント」 「……うへ。 花壇手入れの割り当て、だって」 差し出されたプリントを見るや、嫌そうな顔を隠しもしない恵那。 そんな恵那に峰岸先生は肩を竦めてから、ゆっくりと私を見た。 「生田さん。 …今朝、ホームルーム終わってから教室飛び出して行ったけど……。 なにか、あったの?」 「えっ」 「すごく切羽詰まった顔してたから、何事かと気になってたの」 「…あ、いや…。 私、そんなすごい形相でしたか…?」 はは、と、苦笑いを浮かべる。 「……友達が、金曜から休んでたので。 今日は来てるのかな、と思って…」 「……そう。 まだお休みなの?」 「はい。 …風邪を、こじらせたみたいで…」 「…それは、…心配ね」 当然、美鈴のことを峰岸先生に相談なんて出来るわけがなく、私は当たり障りのない返事をした。 …ていうか、そんな切羽詰まってるように見えてたんだ、私。 「放課後、お見舞いに行こうって話してたの。 それより峰ちゃん。香水なに使ってるの? めっちゃいい香り」 私の様子を察してか、恵那がさりげなく話題を変えてくれた。 峰岸先生は特に気にすることもなく、綺麗な髪を揺らして首を傾げる。 「日本で未発売のブランドのものなの。 人と被らないのが気に入って、イタリアに住んでる友人に送ってもらってるのよ」 「へぇ、いいなー。 甘くて、ちょっとクセのある感じ」 確かに、峰岸先生っていつも甘い香りを纏ってる。 だけど鼻につくほどじゃない、ふんわりと香る程度の。 「………」 ……あれ? この香り、…どこかで…。 .
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