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その香りに、微かな記憶をくすぐられたような気がした。
…あれ、でも。
なんで私、この香りを知ってるんだろう。
思いだそうとしても、私の周りには香水をつける人はいないし。
「それじゃあ、望月さん、確かに渡したわよ。
生田さんも、お友達、早く良くなるといいわね」
「…あ、はい。
ありがとうございます…」
その香りから記憶に手が届く前に、峰岸先生は遠ざかって行ってしまって。
私はなんだか消化不良を起こしたみたいに、なんともスッキリしないまま、うーん、と唸った。
それを見た恵那が、
「ま、あんまり考え込まない方がいいよ。
美鈴ちゃんも、本当にただサボってみたかっただけかも知れないし」
と言って、私の肩をポンポンと叩いた。
私はハッと我に返って、
「そうだ。 うん、今は美鈴のことだった」
「は?
…なに、今の呻きはそのことじゃなかったの」
「…いや、…うん」
「なに考えてたのよ」
「……ん? あれ、なんだっけ」
「…切り替えの早い頭で何より」
恵那はそう鼻で笑って、携帯をカチカチといじり始めた。
確かに、このとき。
私の頭の中は既に美鈴のことで一杯になっていて。
…峰岸先生の香りのことなんて、すぐに忘れてしまっていた。
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