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「…!? 美鈴……っ!!」
一際大きな声を上げ、私は走り出した。
美鈴は傘も差さず、制服姿でびしょ濡れで歩いていた。
「……凛々……」
私に気付いた美鈴が、のろ、と視線を上げる。
思わず、言葉を詰まらせた。
――グレーだ。
この景色と同じ、ひどく物憂げに濡れて、色がない。
全てに絶望して、諦めて、……世界をめちゃくちゃに塗りつぶして、あるのは灰色の輪郭だけ。
美鈴は、そんな目をしていた。
「……な、にしてるの……。
こんなに、びしょ濡れで…」
「………」
こくん、と、思わず喉を鳴らした。
美鈴を傘に入れると、彼女はほんの少し、口元を緩める。
「……こんな格好で帰ったら、…おうちの人が、…心配するよ…」
「……うん」
泣きそうだった。
今までどこにいたの、とか。
どうして、嘘をついて学校を休んだの、とか。
聞きたいことは、たくさんあったはずなのに。
いつもはきっちりと閉じられて、綺麗な形に結ばれた美鈴の制服のリボン。
今は、襟からダランと垂らしているだけで。
胸元が露になるほど、ブラウスのボタンは外されていた。
そして、美鈴の白い首筋にうっすらと浮かび上がっているのは、――赤いアザ。
首を、締められたような。
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