彼女の居場所

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濡れた美鈴の手に、傘の柄をしっかり握らせる。 両手の空いた私は、震えながら、美鈴の制服をゆっくりと直していった。 「……心配、かけて、ごめん…」 「っ……」 落とされた美鈴の声に、とうとう泣いてしまった。 美鈴は力なく微笑んで、ボロボロと涙を流す私を見ている。 「……どうして……」 「……」 「……大丈夫だって、…言ったじゃない…っ。 美鈴…、どうしちゃったの…」 「……」 ボタンを留めていく私の手元を目で追いながら、美鈴は唇を噛む。 一番上のボタン、……アザのある場所に手をかけて、私は思わず、目を閉じた。 「…何も、…もう何も聞かないから…。 お願いだから、…美鈴…」 「…凛々」 私の言葉を遮って、美鈴はまた、視線を上げた。 「…私、好きな人がいる…」 「…美鈴っ……」 「聞いて。 …ぜんぶ、私が望んだことなの」 「……そんな……」 「凛々…」 美鈴は、ふっと眉を下げて微笑む。 そして止まってしまった私の手を片手で握り、そっと外した。 「好きなだけじゃ、どうしようもない恋もあるんだよ」 そう言って、私の肩に寄りかかるように身を寄せる美鈴に。 ――それと同じようなことを、誰かも言っていたな、と。 頭の片隅で考えながら、ただ、美鈴の細い身体をぎゅっと抱き締めてあげるしか、出来なかった。 .
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