彼は容赦がない。

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「……」 目を見張った私をミラー越しに確認して、食い付いた、と言わんばかりに向上先生は笑った。 「あの二人はね、学園で会う前より先に、知り合ってるんだ」 「…そのことなら、高雄から聞いた。 共通の知人がいるって」 「なるほど。 やっぱりそれくらいしか知らされてないのか」 ククッと、愉しそうな、向上先生の笑い声が聞こえた。 「そうだな、まず…。 加賀が、施設にいたことは?」 「知ってるよ。 ……早くに、ご両親が亡くなったからって、聞いてる」 「……亡くなった、ね」 ふぅん、と、興味深げな相槌をうつ向上先生を見て、ふと、不思議に思った。 …この人はどうして、こんなに高雄のことを知っているんだろう。 いくら大学が同じだったとは言え、友人でもないのに。 「その施設の責任者、…いわゆる孤児の仮親の名前は、峰岸光一」 「……え」 「そう。 …峰岸先生の、父親だよ」 「……じゃあ、高雄と峰岸先生は…」 「幼い頃から一緒に暮らしてた、ってことになるね」 「………」 だからか、と思った。 だから、あの二人の間には、親しげな雰囲気が漂っていたんだと。 「……それが、どうかしたの?」 私の言葉に、向上先生が、ちらりと目線を上げた。 「確かに、そんな話は、高雄から聞かなかった。 けど、それがどうっていうの? 高雄は、嘘なんかついてないじゃない」 確かに、峰岸先生と一緒に暮らしてたと聞いて、胸がざわつかなったとは言えない。 だけどそれは高雄のプライバシーだから、敢えて言わなくてもいいことなんだし、“共通の知人”というのも、嘘じゃない。 それが向上先生の言う“秘密”や“罪”なら、笑い飛ばせるくらいだ。 そう思った私を、向上先生が、可笑しそうに鼻で笑った。 .
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