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高雄の目が、見開かれる。
それは肯定の意味なんだと、私はひどく悲しい気持ちになって――、……だけど高雄は、次の瞬間には、いつもの柔らかい笑顔に戻っていた。
「……嘘なんて、ついてないよ」
「……」
「峰岸先生とは、共通の知人がいる知り合い。
…お嬢に言わなかったことといえば、峰岸先生は俺が世話になっていた施設長の娘、ってことかな。
施設には俺の他にも数十人いて、……みんな、家族同然に暮らしてた」
「……」
「知り合いが腑に落ちないなら、そうだな。 ……妹、って言ってもいい。
それ以上でもそれ以下でもない」
唇を噛んで見つめる私に、高雄は寂しそうに微笑む。
「……峰岸先生から何か聞いたの?」
「……違う」
「じゃあ、なんで嘘ついたと思うの?」
「……」
どこか切なそうに語りかける高雄。
一瞬、向上先生とのことを話そうかと迷ったけど、私は、
「…香り」
とだけ、呟いた。
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