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「俺には、恋人なんていない。
峰岸先生に会うために、夜、出掛けてなんてない」
「……じゃあ、なんで香りが…?」
「お嬢は耳だけじゃなく、鼻もいいんだね。 俺、自分では気がつかなかったよ。
…ルームフレグランスじゃないかな。
よくある香りだから、たまたま峰岸先生の香水と似てたんじゃない?」
「………」
ああ、やっぱり、高雄は嘘つきだ。
よくある香りなんかじゃない。
だからこそ、こんなに鮮明に記憶に残ったのに。
『日本で未発売のブランドのものなの。
人と被らないから、気に入ってるのよ』
そう言ってたのは、他でもない、峰岸先生本人だ。
その香りで満たされた部屋に泊まったということは何を意味するのか、……私が子どもだから、判らないと思ってるんだろうか。
「…高雄…」
「なに?」
多分、私の目は潤んでいる。
だけどそれを隠すことなく、高雄を真っ直ぐに見つめた。
「……嘘でも、いいから…。
…私からは離れないって、言って…」
――私はなんて、曖昧なものを欲しがってるんだろう。
高雄にとって嘘をつけるようなちっぽけな存在なら、…その嘘の中でも、自分の価値が欲しいなんて。
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