嘘つきなオオカミ

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高雄の瞳が、揺らいだ。 「…俺がどうして、お嬢に嘘をつかなくちゃならないの」 嘆くようなため息を漏らし、カタン…、と立ち上がる。 そして、テーブルに手をついて、影を作りながら私を見下ろした。 「俺はお嬢からは、離れない。 例えお嬢が、俺をいらないって言ったとしても」 「……」 「…離して、やらないよ…」 くんっ、と、顎を掴まれて、上を向かされる。 それと同時に落ちてくる、唇の柔らかい感触。 ――『じゃあ、いつも何処に行って、誰と会ってるの?』 そこまではっきりと聞けない私は、やっぱり弱いのかも知れない。 最後の最後まで、逃げ道を残しておきたいのかも知れない。 だけど。 …だけどこうして触れてくれるときだけは、それが、確かなものなんだって。 いずれ毒が回るって分かってても、まやかしみたいなものだとしても。 高雄の手の中でなら、少しでも長く、甘く騙されていたい。 好きでいることを、許されるなら。 ちゅ……、と、湿った音を立てながら、高雄が私の唇を吸う。 「…言えよ」 「……」 「そんな不安そうな目をするんじゃなくて、ちゃんと言って。 …俺は、お嬢が求めて初めて、動けるんだから」 「…高雄…」 「聞かれなきゃ、答えられない。 ……どうすれば、…何を言えばお嬢が不安じゃなくなるのか、教えて」 「………」 私は、ずるい。 耳を塞いで、目を閉じて。 …ひとときでも、満たされることを選んでしまう。 「……もう一回、キスを、ちょうだい……」
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