3613人が本棚に入れています
本棚に追加
ホームルームが終わり、職員室に向かう途中、誰かが私の肩をポンと叩いた。
「いーくったさんっ」
「……」
「あれ、無視?
凛々ちゃんじゃなく、ちゃんと生田さんて呼んでるのに」
「……」
相変わらずの軽いノリで立っていたのは、向上先生だった。
…振り返らなきゃ良かった。
…そういえば。
今日は木曜日だったっけ。
わざとらしくため息をついてそのまま歩き始めると、向上先生は気にする様子もなく、のんびりと私についてくる。
「そんな警戒しなくても、こんな人目のある校内で襲わないよ」
「発言だけでもセクハラって成立すること、知ってます?」
「おお怖。
ちゃんと加賀先生とも上手くやってんだから、そんな邪険にしないでよ」
「……」
ぴた、と足を止め、斜め後ろを睨む。
そうだった。
先週、廊下で向上先生と高雄が二人で話してたことを思い出した。
私が口を開く前に、向上先生は、
「…加賀先生から、パーティーで会いましたね、って、声をかけられただけだよ」
と、ニッと笑った。
「それだけ?」
「それから、凛々ちゃんと自分との関係は、学園内では秘密にしておいてくれって。
俺に対しても、パーティーの時みたいに凛々ちゃんに馴れ馴れしくしないようにって。
しっかり、釘を刺されたよ」
「全く効いてないじゃないですか」
「まあね。
キスしちゃった後に言われても遅いよね」
「ちょ……っ」
「はははっ」
思わず手を振り上げると、向上先生は笑いながら、ピョンと飛び上がって後退した。
最初のコメントを投稿しよう!