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もうヤダ、この人。
周りから、「あ、あの二人だ」と好奇の視線を感じる。
数日前の校門での平手打ちの件で、私と向上先生との仲を面白おかしく噂されていることは、なんとなく知っているけど。
……けど、不快だ。
相手がこの人だから、特に。
「…私からもお願いしたいです。
せめて校内では、話しかけないで頂けませんか」
「校外ならいいんだ?
最初に比べて、随分気を許してくれるようになったなぁ」
「……」
減らず口。
げんなりとして、私は大股で歩き出した。
「…俺にしとけ、って言うくらいなら、せめて私のタイプになってからにして下さい」
「言うね。
どんな男がタイプなの」
「少なくとも、向上先生みたいに軽口な人じゃありません」
「じゃあ嘘つきな加賀先生は論外だ。
……ちゃんと、彼は峰岸先生とのことを話してくれた?」
「!!」
まるで誘導尋問だ。
というか、向上先生は何気ない会話から、核心に持っていくことに長けている。
まさか今、その話をされるなんて――と目を見開いた私に、彼はにっこりと微笑んだ。
「凛々ちゃんのことだから、加賀に直接聞いたんじゃないの?
“峰岸先生とどういう関係なの?”って」
「……」
どうしてそんなこと分かるの?とか。
高雄には何も聞かなかった、としらばっくれてみるとか。
何か反論しようとして、――やめた。
私がどう言ったって、向上先生の予想の範囲内からは外れない気がして。
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