その恋の行方

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歩くスピードを緩め、私はなんとなく、人気の少ない廊下で足を止めた。 それを分かっていたかのように、向上先生もまた、のんびりと立ち止まる。 「…峰岸先生は、恋人じゃないって、言ってました…」 「……へーぇ」 「私には嘘はつかないって。 ……だから、私は高雄を信じる」 「………」 「だってよく考えたら、おかしい。 ただ大学が同じだっただけの向上先生が、どうしてそこまで知ってるの? ……向上先生のほうが嘘をついて、私から高雄を引き離したいだけなんでしょう?」 ほんの一瞬、間があった。 そして、向上先生は小さく笑って、 「なるほど。 なかなか賢いね、凛々ちゃん」 と、言った。 意味が分からなくて眉を潜める私に、彼は眼鏡の奥の目をすっと細める。 「流されてくれるかな、って思ったんだけどな。 仕方ない、白状するけど。 ……加賀と峰岸先生が恋人同士かどうかなんて、実際は、分からない」 「…っ、…さ、いてい…っ!!」 バッ、と振り上げた手を、向上先生は待ってましたとばかりに掴んだ。 そして。 「だけど、峰岸先生の家に加賀が出入りしてるのは、本当だよ。 だったら、男と女の関係だって考えるだろ、普通」 さらり、と、そう言われて。 ……あの甘い香りの記憶と一緒に、…何を期待したんだろう、と、落胆した。 高雄に、『恋人なんていない』と言われたとしても。 向上先生が、嘘をついていたとしても。 ――高雄が帰らない夜があることには、変わらない。 「…心当たりがある、って顔、してる」 すごく、愉しそうに。 落胆していた私の陰りに気付いた向上先生に顔を近付けられて、私は慌てて身を引いた。 「……どうして……」 「ん?」 「どうして、向上先生は……。 …高雄のことを、そんなに、知ってるの……?」 「……」 向上先生から、笑みが、消えた。
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