その恋の行方

10/14

3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「調べたから」 一拍の間を開けて、向上先生の口から出てきた言葉に、私は信じられない思いで目を見開いた。 「…調べた、って…。 高雄のことを? どうして」 「正確に言うと、加賀高雄を調べたわけじゃない。 もとは、加賀の父親が調査対象だったから」 「…高雄の、…お父さん…?」 「べつに法に触れるようなことはしてないから、安心して。 まあ、それもギリギリ、ってとこだけど」 「…意味が…」 分からない。 亡くなった高雄のお父さんのことを、どうして……。 「まあ、そのことは、いずれ話してあげるよ」 私の声にならない疑問を察したように、向上先生は再び穏やかな笑みを浮かべる。 「俺が言ってるのは、出任せじゃない。 事実だけなら、凛々ちゃんよりも、加賀のことは詳しいだろうね」 「……」 「峰岸先生との夜の逢瀬も、含めて」 一歩、向上先生が私に近寄り。 私は思わず、ビクッと身構えた。 「……今度、加賀が夜に出ていくことがあれば」 ポン、と、向上先生の手が、肩に添えられる。 そして、少しだけ口を私の耳に寄せて、 「電話して。 …加賀がどこに行っているのか、教えてあげる」 「……っ」 「“高雄”をつけるなんて、って、思わなくていい。 凛々ちゃんはただ、…俺の車に置き忘れた傘を、取りに来るだけ。 ……ね?」 そう、甘い囁きをして。 「行こうか。 凛々ちゃん、職員室に向かう途中? 俺も行くとこだったんだ」 次の瞬間には、いつもの軽い雰囲気になった。 私は、その普段の向上先生と、さっきまでの彼との落差に呑まれてしまって。 はい……、と、くぐもった返事をして、それ以上は、何も聞けなかった。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3613人が本棚に入れています
本棚に追加