彼と私の関係

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「っ!」 背中にほんの少し触れている体と、顔の隣にある影に意識を集中させていると、突然、私の右手が、高雄に包まれた。 シャワーの後なのに、ひんやりとした大きな手。 私の手がすっぽり覆いかぶされて、手にしていたボールペンが、微かに震えた。 「はい、決定。マル…と」 「は?……あ、あーっ!」 高雄は私の手を握ったまま、二人羽織のようにペンを動かし、プリントに○をつけた。 「優柔不断なお嬢の為に」 手をぱっ、と離して、ニッコリと微笑む。 『日本文学』の教科の欄に印があり、私は慌てて講師の名前を確認する。 『講師、華道家の竜胆善次郎先生』 一気に青ざめる。 だってこの人は、この業界では知らない人がいないくらい、気難しくて有名。 何度か茶会で会ったけど、恐い、の一言しか印象にない。 「なんで勝手なことすんのー!? やだよ!竜胆さんが先生なんて! 登校拒否になっちゃう!」 本気で涙目になってしまった私の顔を覗き込んで、高雄は笑顔で人差し指を口に当てている。 「大丈夫。 …ここだけの話し、竜胆氏は仕事の都合で講師の依頼を辞退したんだ」 「……そうなの?」 高雄が言う新事実に、目からウロコな気分になる。 それなら、まあ、いいか。 竜胆さんの名前があって、最初から候補から外してたけど、日本文学の授業は面白そうだし。
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