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そして、のんびりと歩き始めた向上先生の後ろを、一定の距離感を持ってついていく。
向上先生は何も言わず、鼻歌なんか歌って。
――私は、どうしたいんだろう。
言いようのない不安とか、疑問とかが、次々に頭をもたげて。
だけどそれを知ることは、――嫌な予感しかないんだと、私は薄々気付いていた。
高雄への恋には未来がない。
それを、自分から覗きに行っているようなものだ。
高雄に初めてキスしてもらった15歳の誕生日から、この想いは隠していくって――、決めてたはずなのに。
「……」
突然、ああ、そっか、と思った。
そっか、私はもう、…高雄への想いを隠せなくなったから。
だから、ちゃんと自分に言い聞かせたいんだ。
高雄は、私を突き放さないから。
……優しい嘘をついて、私を甘やかすから。
この恋の終わりを、見なくちゃいけない。
だけど、見たくない。
感情の矛盾を抱えるって、苦しい。
『好きなだけじゃ、どうしようもない恋もあるんだよ』
不意に、美鈴の言葉を思い出して、
じわ……、と、涙が滲んできて、私はじっと堪えるように下を向いた。
角を曲がると、下駄箱から職員室に続く一直線の長い廊下。
その壁の一面が、掲示板になっていて。
「………なんだ、あれ」
向上先生の張り詰めた声が聞こえて、私は顔を上げた。
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