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私の微かな呟きを聞き取ったのは、向上先生だけで。
彼はハッとして、私の視線を追った。
瞬間。
美鈴が青ざめ、慌てて背中を向けて、走り出す。
「…っ、待って……!!」
「生田さん!」
向上先生から離れ、美鈴を追いかけようと走り出した私に、高雄が声をかける。
そして、
「俺が行く。
…大丈夫だから」
私を追い抜いていく瞬間、声を潜めて、気遣うようにそう囁いた。
「……」
ふっ、と、足から力が抜けて、静かに立ち止まった私からは、美鈴どころか高雄の後ろ姿すらもう見えなくなっていて。
集まっていた生徒たちのざわめきや、騒ぎを収めようとする先生たちの大声なんかが、思い出したように耳に入ってくる。
「…彼女も、相当ツラい恋をしてんだね」
さっきまでは明らかに動揺していた向上先生は、もういつもの調子に戻っていた。
私の背後にゆっくりと歩み寄り、耳に、そっと口を近付ける。
「おおかた、その恋に行き詰まって、投げやりになっちゃったんだろうね。
…自分を傷つけたって、何も変わりやしないのに。
……ねぇ、凛々ちゃん」
「……」
「あれが、君の恋の行方だよ。
…このまま加賀から離れないなら、君も、近い将来、同じことになる」
――何を言っているのか、分からない。
だけど、ただ。
これが、恋の結末だというなら。
…私も美鈴も、真っ暗な足元に立っているんだろう、と。
そう、思った。
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