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「結論から言うと、綾部さんには逃げられた」
夕方。
学校から帰って来た高雄が、疲れた様子でそう言った。
ネクタイを緩めながら、軽くため息をついて。
「多分、見付かれば誰かが追いかけてくると思ってたんだろうね。
立ち止まることも振り返ることもなく、ひたすら逃げてた」
「……」
「でも、変な繁華街で見失ったわけじゃない。
自宅の方に走っているんだと気付いて、追うのをやめた。
……案の定、教頭が家に連絡を入れたときには、帰ってたみたいだった」
「……家に、連絡を……?」
ダイニングのテーブルに座ったまま青ざめる私に、高雄は心配そうに眉を下げている。
「…誰の目にも触れないうちにあの写真を見つけていれば……、無かったことに出来たかもしれない。
だけど、あれだけの人に見られて、あれだけの騒ぎになってたんだ。
…いくら俺でも、持ってた写真を無断で処分は出来ない」
「……」
あの後。
午前の授業は自習になり、緊急の職員会議が行われた。
美鈴を追って戻った高雄も、その足で職員室に入り、……あの写真を、教頭先生に渡したようだった。
「あの場に居合わせた向上先生と俺も会議に参加したけど……。
俺たちは所詮、臨場講師にすぎないから。
すぐに出て行くよう言われたから、今日の会議で、どこまで話し合われたのか分からない」
「………」
「あの写真が本物か、本当にそんな事実があったのか。
どちらにしろ、親御さんには、連絡して事情を話さなきゃいけないからね…」
「………」
私は絶望したみたいに、ギュッと、強く目を瞑った。
……美鈴。
今、どうしてるの……?
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