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よく晴れた、土曜の朝。
私は緊張した面持ちで、桧で出来た立派な門の前で立ちすくんでいた。
大きな閂がついているそれは、普段開いているのを見たことがない。
門の上からは、背が高く、横に枝を伸ばした日本松が、私を覗くように生い茂っている。
――日本舞踊の家元、綾部家。
携帯を胸の前で握り締め、軽く深呼吸をした。
私がここにいる理由は、朝早くに届いたメールだ。
送信者は、――美鈴。
内容は、とても簡単なもの。
まるで、2日前の騒ぎの渦中にいた人からとは思えないものだった。
『今日、会える?
良ければ、うちに来ない?』
メールに気付いた私はすぐに、『行く!』とだけ返信した。
すると、すぐに、
『分かった。
いつでもいいから、着いたらインターホン鳴らしてくれればいいよ』
と、返事が来て。
…携帯の向こうで、美鈴が眉を下げて、『凛々は、せっかちだからなぁ』と笑っているようだった。
慌てて身支度をして、今、こうしているわけだけれど……。
「……」
正直なところ、恐い。
美鈴が、どうしているのか。
一体どうして、急に私を呼んだのか。
知りたかったはずなのに……恐い。
私は、もう一度、今度は深く深呼吸をして。
門の横手にある、小さな勝手口のインターホンを、押した。
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