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扉を開けてくれたのは、見覚えのある、年配のお手伝いさんだった。
「お久しぶりです」との私の挨拶に、彼女は記憶にある朗らかな笑顔ではなく、伏し目がちの悲しそうな目をして、小さく頷く。
案内されて廊下を歩く間、屋敷の中は物々しいくらい静かで。
……みんな、美鈴が起こした行動に、うちひしがれているようだ、と、簡単に察することができた。
「…お嬢様、凛々さんが来られましたよ」
美鈴の部屋の前まで来て、お手伝いさんはそう告げると、もう一度頭を下げて行ってしまった。
私も慌ててその後ろ姿に頭を下げると、それを見計らったかのように、カチャ……、とドアが開いた。
「凛々、いらっしゃい」
「……っ」
思いの外、声は明るくて。
だけどホッとしたのは束の間で、私は振り向いた途端、驚きで言葉を失った。
そして、ぐっと、喉に熱いものが込み上げてきて……、
「美鈴……」
私は、泣きそうに震えた口から、声を絞り出す。
「…その、頬……」
「……。
心配かけて、ごめんね。
…お母さんが、…ちょっとパニックになって……」
気まずそうに笑って、俯く美鈴。
彼女の頬は、赤紫色に腫れていた。
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