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「……お帰り」
「………」
美鈴の家を出てすぐの大通り。
その路肩に停められた車に寄りかかるその人は、私を見付け、表情なくそう言った。
私は驚いたものの、…すぐに、全身の力が抜けていくのが分かった。
…そういえば、あの雨の日は。
ここには、向上先生がいたんだっけ。
そんなことを思い出しながら、私は彼を見上げた。
「……高雄。
どうして、ここにいるの?」
「……。 お嬢を、迎えに」
「…私、何も言わずに家を出たけど」
「だから、だよ」
「………」
「昼過ぎても帰らなかったから、…多分、綾部さんのとこに来てるんだろうと思った」
「昼過ぎって……」
私は思わず目を見開いた。
だって、今はもう、日が傾いている時間帯で。
一体何時間ここで待っていたの、と言おうとしたのを、高雄は分かっているかのように、
「車で音楽かけながら仕事してたんだ。
家にいるよりも、正直はかどったよ」
と、笑って見せた。
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