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「そんなことより」
私の気遣いなんて無用だ、と言わんばかりに、高雄は話を切り替えた。
「……綾部さんとは、話せた?」
「……」
私は、黙って頷いた。
泣いて、泣いて、ただひたすら、泣いて。
…そして美鈴は、私の腕の中で眠ってしまったんだ。
まるで、小さな子供みたいに。
それに添うように私も横になり、美鈴の青紫に腫れた頬をそっと擦った。
…怖かっただろうな。
淡々と、なんでもないように言ってたけれど。
お母さんに打たれたり、知らない人と、一線を越えるなんて……。
失恋の痛みが大きすぎて、それに向けられる感覚が麻痺してしまったんだろう。
あんな細い身体に、どれだけの悲しみが渦巻いているのか。
そう思うと、どうしても離れられなくて、ずっと美鈴の手を握っていた。
やがて目を覚ました美鈴。
それから、私たちはずっと他愛ない話をしていた。
ベッドに並んで寝転び、手を繋いで。
小さい頃の思い出なんかを、ずっと。
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