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車に乗って家に帰る間、高雄は何も聞かなかった。
私も、美鈴が教えてくれた事実をそのまま言うことは憚(はばか)られて、助手席に座って、ただ窓の外を眺めていた。
だけど多分、高雄は私の様子で大体のことは把握していたはずだ。
美鈴の心情やその経緯とか細かいことは分からないにしろ、あの写真が事実かどうか、とか。
…私がショックを受けるような最悪の事態だったんだろう、とか。
ううん。
もしかしたら高雄は、美鈴があの写真を見て逃げ出したときから、分かってたのかも知れないけど。
だから、こうして迎えに来たんだと思う。
「……高雄」
「…ん?」
家に着き、高雄が甘いミルクティーを用意してくれた。
ピンクの大きめのマグから、いい香りがする。
「聞かないの? なにも」
「話したいの? お嬢は」
「……」
立ち上がる湯気みたいに、ふわりと柔らかく聞き返され、気持ちが緩む。
また喉の奥が熱くなり、それを堪えながら、私は首を横に振った。
すると高雄は、“分かってるよ”と言わんばかりに、優しく微笑む。
「それなら、それで」
そう言って高雄は、自分の黒いマグにミルクティーを注ぐ。
「……でも……」
「でも、なに?」
高雄は変わらず、優しい笑顔のまま。
“でも、しばらく傍にいて”
そう伝えようとした、その時。
静かな部屋に、携帯の着信音が鳴り響いた。
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