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「…ごめん」
「……ううん。 出ていいよ」
高雄が携帯を取り出し、表示を見る。
「………」
――あ、と思った。
高雄が僅(わずか)に、困惑した表情を浮かべたから。
…あの人から、だ……。
「ごめん、電話出てくる」
少し慌てた様子で、高雄は仕事部屋へ入って行った。
――なんで。
なんで、今なの……?
頭がぐるぐるして、視界が滲む。
さっきまでのミルクティーの甘い香りも、温かい温度も、一気に吹っ飛んだ。
気持ちが、ヒヤリと冷めていく。
そして5分もしないうちに、仕事部屋の扉が開く気配がして、ビクン、と身を強張らせた。
「お嬢」
「……っ!」
俯いた私の頭に、高雄の声が落ちる。
恐る恐る顔を上げて、すぐに後悔した。
だって、高雄が。
……出掛ける準備をして、そこにいたから。
「……ごめん、お嬢。
急で悪いけど、ちょっと――」
「嫌」
“出掛けてくる”って続くのを遮って、自分でも驚くほどハッキリと言った。
高雄の目に、動揺が揺れる。
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