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「乗って。
わざわざ持って来たんだから、お礼に少しだけドライブに付き合ってよ」
「……」
開かれたのは、助手席のドア。
座席の横手には、見慣れた水色の傘があった。
「………」
……ここまで来てしまって、今更何に抵抗することがあるんだろう。
ひどく疲れた心と身体で、のろのろと助手席に座った。
向上先生はドアを閉めると、素早く運転席に乗り込み、車を発進させる。
「……高雄に……」
「…うん」
「…置いていかれちゃった……」
「……」
無防備にそう呟いた私に、向上先生は、前を見たまま険しい顔をする。
「行き先は、変更しないよ」
「…え?」
「そのつもりで来たんだろ、凛々ちゃんは。
加賀に置いて行かれて、それでも。
…その目で見なきゃ、気がすまないんだろ」
「……」
「今、ここで。
加賀を忘れたいから俺と付き合うって言うなら、行き先は変更してもいいと思ってた。
だけどそれでもまだ、凛々ちゃんの頭の中は、加賀のことで一杯だ」
「……」
すっ、と目を細めて、口角を上げる向上先生。
「いいよ。
…加賀がどんな男か、見せてあげる」
ドライブの行き先は、分かってる。
――高雄と、あの甘い香りが、ぴたりと交わる場所。
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