パンドラの箱を開けるとき

6/15

3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
ぐっ……、と、胸に熱いものが込み上げた。 泣いてしまわないように唇に力を入れて堪えると、隣で、向上先生がくすっと笑う。 「でも今は、出掛けてるのかな。 車がないし」 「……え?」 「いつも、と言っても、俺が見たのは2回ほどだけど。 加賀の車は、あの勝手口の前に横付けしてあるんだ」 そう言って、顎をくいっと上げる向上先生。 そう言われてみれば、高雄の車は、近くには見当たらない。 「まぁ、そのうち戻るだろうから。 待ってみようか」 「………」 まるでピクニックに来たみたいに、少し倒したシートに沈み、両手を頭の後ろで組んだ向上先生。 「……向上先生は……」 「うん?」 「…どこまで、……高雄のことを知ってるの……?」 「………」 その様子を一度見つめ、私はまた前を見据えて訊いた。 向上先生の纏う空気はいつもと変わらず、ゆったりしたままだ。 「……そうだね。 このまま待つのも、退屈だし」 「……」 「少し、話そうか」 ギ……、と、シートの軋む音。 「凛々ちゃん、……グンジ、って言葉、知ってる?」 「……グンジ?」 「うん、軍勢を司るって書いて、“軍司”」 「それって、……歴史で習う、軍に仕える策士のこと? 戦いの作戦を立てたり、刺客を送ったりするのが仕事の…」 「正解」 向上先生が、パチパチと手を叩く。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3613人が本棚に入れています
本棚に追加