パンドラの箱を開けるとき

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いきなりの耳慣れない言葉と、全然違う方向性の話しが飛び出して来て、私はただキョトンとする。 向上先生はそれを見て、くすくすと笑った後。 「今、現代でもね。 その軍司っていうのを家業としてる人はいるんだよ」 「…えっ、だって…」 「と言っても、現代に将軍がいるわけじゃない。 今の雇い主は、政治家だ」 「……政治家……」 向上先生は、そう、と、綺麗な笑顔で頷いた。 「選挙のポスターのイメージから、街頭演説のやり方の指導、選挙資金の配分割り当て。 軍司が指揮を執ることは、相当あるんだよ。 素人の地方議員をどれだけ多く当選させたかが、その軍司のキャリアになる」 「……そうなんですね……」 なんだか、授業を受けているみたいだ。 真剣にふんふん、と聞き入る私に、向上先生が眼鏡の奥の瞳を細める。 「そこで、問題だ」 「…?」 「例えば、同じ地区で同じくらい指示を集める候補者が二人いるとしよう。 勝つための決定打になるのは、何だと思う?」 「えぇー……」 うぅん、と、頭をひねる。 「……分かりません。 その時の運か、もしくはどっちかが悪事を働いて人気ががた落ちするとか……」 「そう」 「え?」 ただ単純に、思い付くまま言った答えに、向上先生はパンッと手を叩く。 「悪事を働くっていう進行形はないけど。 過去に何か後ろめたいことがあれば。 ……それが世に出れば、人気と信頼は落ちる。 勝つための決定打は、どれだけ自身が“白”か、だ」 「………」 「要するに、相手のスキャンダルをどれだけ手に入れられるか。 もしくは、相手に知られる前に、こっちの黒を白に塗り替えられるか。 身辺調査と、その整理。 ……軍司の手腕が問われるところだね」
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