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“身辺調査”という言葉が、私の記憶の奥を掠った。
そういえば、前に。
なぜ高雄のことをこんなに知っているのか訊ねたとき、向上先生は、『調べたから』と言っていた。
だけどその対象は、高雄自身じゃなく……。
「そろそろ、話が見えてきたかな?」
「……」
私の考えてることを見越してか、向上先生はそう言って首を傾げた。
「俺の父親が、その軍司。
そして加賀の父親が、依頼人である政治家だ」
「………」
信じられない思いで、向上先生を見つめた。
彼は相変わらず、何を考えてるのか分からないほど綺麗な笑顔を張り付けている。
「加賀の父親はね」
そして、声を出せずにいる私に構わず、こう続けた。
「政治家として飛躍するために、加賀を捨てたんだよ」
「……捨てた……?」
「そう。
“息子がいる”という事実が、邪魔だったんだ」
「……」
頭が、ついていかない。
私は無意識に、向上先生から『ひまわり園』と書かれた施設の入り口に視線を移して。
そしてようやく、“捨てた”という言葉が、じわりと脳に染み込んできた。
「……どうして……」
「………」
「…どうして、そんな……」
疑問をすべて口に出来ず、声に力が入らない。
「順番に、説明してあげるよ」
向上先生から、すっ……、と、笑みが消えた。
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