パンドラの箱を開けるとき

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「加賀の父親の血筋は、みんな大物政治家だ。 政治家はほぼ世襲するもんだけど、彼は次男坊だったから、政治とは無関係に好きなことをして生きてた」 「…無関係、に…?」 「そう。 政治家の道は、自分じゃなく兄の役目だってね」 「……」 なのに、なぜ。 高雄を捨てる事態になってまで、政治家に……。 「けどね、問題が起きた」 私の声にならない疑問を、向上先生がすらすらと答えていく。 「亡くなったんだよ、跡継ぎである兄が。 事故だったらしい」 「……そんな……」 「そして、ここからだ」 「……」 「ここから、加賀の父親と加賀の人生が、変わっていく」 向上先生には、もう笑顔はない。 私の方を見ることもなく、視線は、『ひまわり園』に縫い付けられていた。 「何度も言うけど、政治家は世襲する。 支持を確実に集められるからね。 兄が亡くなって、次に白羽の矢が立つのは、同然、その弟だ」 「…うん…」 「だけど全く好き放題してきた弟は、知識も無ければ知名度も低い。 いくら政治家一家の息子とは言え、それじゃあ確実に選挙には勝てない。 そこで出たのが、縁談。 …銀行頭取の娘との政略結婚で、後ろ楯を強くしようと、周りは考えた」 「……それって……」 言いかけた私を遮るように、向上先生が、すいっ、とこっちに視線を戻した。 そして、ニッ…と、冷たく口角を上げる。 「だけど彼には、既に妻と子供がいた。 それらを棄てて、彼は政治家になる道を選んだんだよ」 「……っ」 「そして」 向上先生が、くすっ、と笑った。 「妻と息子がいた事実。 それらをメディアや他の候補者、支援者にバレることがないよう、徹底的に処理しろ、と。 依頼を受けた軍司が、俺の父親だった。 ……加賀高雄が、9歳のときの話だよ」
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