パンドラの箱を開けるとき

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あまりにショックで、喉の奥がひくっ…と引きつる。 「……そ、そんなこと……」 「もちろん、戸籍を抹消するなんてこと出来ないよ。 ただ、身辺調査とその整理に、その軍司の手腕が問われると言っただろ? メディアや相手の軍司に嗅ぎ付けられないように、“無かったこと”にするんだ。 …元妻とその息子を徹底的に調べあげて、どこからも事実が漏れないように」 「……ひ、どい……」 「法律に引っ掛からない程度にね」 そういうことじゃない。 だって、高雄が9歳のときって……。 「……たかお、は、知ってるの…?」 「……。 知ってる。 何もかも、ね」 「………」 じわっと、目元が熱くなる。 「だから、加賀は父親を憎んでる」 向上先生の目が、ふ、と伏せられて。 ハンドルに添えていた右手の人差し指で、トントン、とそこを叩く。 「加賀の母親は、もともと病気がちだったみたいで。 離婚から1年後に長期入院することになって、加賀高雄はこの施設に入った。 …母親が亡くなったのは、その2年後だ」 もう、言葉が出てこなくて。 だって、知らない。 10年も、一緒にいたのに。 私は、高雄のことを―――ほんの上澄みしか、知らないんだ。
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