パンドラの箱を開けるとき

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「……俺が、加賀に興味を持ったのは」 目の前が霞んで、ぼぅっとしている私に、向上先生のゆったりとした声。 「境遇が、似てるからなんだ」 「……似てる……?」 のろり、顔を上げる。 向上先生は、ハンドルにある手元に視線を落としていた。 「うちの父親は、変にお人好しなとこがあって。 仕事では手を抜かないけど、あの年で親から引き離された加賀高雄を、ひどく気にかけてた。 まだ8歳だった俺に、『可哀想だな』なんて溢してしまうほど」 「……」 そう、か……。 当たり前だけど、その当時は、向上先生も子供だったんだ。 「けどね、そう言ってた父親も、加賀の父親と同じことをした」 「……え?」 向上先生が、くすっ、と。 冷たく、口元だけで笑った。 「再婚相手が、俺をいらないって言ったんだ。 そうしたら、悩みながらも、最後は俺を養子に出したんだよ」 「……っ」 背筋が、ぞくっとした。 顔を強張らせた私に気付き、向上先生は目だけで私を見ると、ふ、と柔らかい笑顔を作る。 「そうは言っても。 うちの場合は、母親はとうに亡くなってて、俺は祖父母に育てられてたから。 養子に出したと言っても、祖父母の姓になるだけで、実質の生活は変わらなかったよ。 再婚した父親こそ一緒には暮らさなかったけど、頻繁に会いに来たし、険悪じゃなかった。 …加賀と違ってね」 「……そう、ですか……」 それ以上、言葉が出なくて。 だって、この人に同情するのは、違う気がする。 向上先生だって、そう思ってるから……。 “同情を引く気はない”と伝えるつもりで、……わざと雰囲気を変えたんだと、思った。
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