パンドラの箱を開けるとき

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私が少しだけ身体の力を抜いて、向上先生から視線を逸らすと。 “それでいいんだよ”と言わんばかりに、彼は目を細めた。 ギ……、と、深くシートに座り直す音が、横から聞こえる。 「高校の頃に、社会勉強のために父親の事務所で下っぱをしてたことがあるんだ。 その時に、ふと、思った。 加賀高雄……彼と俺は似た境遇にいるんだな、って」 「……」 「父親の許可をもらって、当時の資料を読ませてもらった。 そうして、今話した全てを知ったんだよ」 「………」 思わず、目を伏せた。 どれだけ私の知らない事実があるのかを、まざまざと見せつけられたみたいで。 だけど向上先生は、いや…、と小さく呟き、くすくすと可笑しそうに笑い始めた。 「違うな」 「え……?」 「今話したのが、全てじゃない」 そう言って、目を細めたまま、こっちを向いた。 「資料には、他にも書いてあることがあった。 元妻と息子である加賀高雄のこと以外で……。 俺の父親が、揉み消した事実が」 「……揉み消した、事実……?」 「要するに、加賀の父親の罪は、他にもあったんだ」 「………」 心臓の辺りを、ひやりと冷たくなぞって。 “罪”という言葉が、すっと落ちてくる。 だって、この人の口からそれを聞くのは、……2回目だ。
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